確定申告書は次のいずれかの方法で提出しますが、どの方法を選択した場合でも、確定申告書の提出は誰でも行うことができます。
本人が税務署の窓口に行かなくても、たとえば納税者の配偶者や子ども、親などが納税者に代わって提出することも可能です。
電子申告(e-Taxで行います)
郵送
税務署へ持参
これらのうち、納税者以外の人が税務署へ持参する方法で提出する場合、納税者本人のマイナンバーカードなどの本人確認書類(コピーでも問題ありません)を税務署に持参する必要があります。
この場合、委任状は必要ありませんが、納税者本人と親族関係がない人(たとえば友人、知人)が提出するときは「申告・申請等事務代理人届出書」を持参すると税務署での提出手続きをスムーズに行うことができます(後で述べます)。
2.確定申告書の作成を代理できるのは税理士だけ (1) 確定申告書の「代理作成」は家族でもNG家族でも確定申告書を代理で作成することはできません。
税理士法で「税理士または税理士法人以外の者は税理士業務を行ってはならない」とされていて、この「税理士業務」に「税務署へ提出する申告書を作成すること」が含まれているためです。
たとえ無料(無対価)であっても、自分以外の人の確定申告書を作成することは税理士法に違反するのが原則です。
なお、他人の確定申告書を作成した者は、税理士法の規定によって2年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
(2) 家族が確定申告書の「代筆」を行うのはOK単なる「代筆」は、税理士法で非税理士が行うことを禁止されている「申告書を作成すること」に含まれません。このことは、「税理士法基本通達」という、国税庁が各国税局に発出している行政文書にも明記されています。
したがって、納税者の家族が確定申告書の代筆を行うことは問題ありません(これは家族に限らず、友人・知人でも同じです)。
「代筆」については、納税者の指揮命令に基づいて機械的に行う作業のことをいいます。従って、たとえば次の作業を納税者の家族が行うことは問題ありません。
家族が代理で行ってOKなこと
納税者の事業について日々の帳簿をつけること
納税者本人が承認した数字を確定申告書に転記すること
納税者本人の了解に基づいて、確定申告書を提出すること
一方、「作成」については、自己の判断に基づいて行う作業をいうと考えられます。従って、たとえば次の作業を納税者の家族が行うことはできません。
家族が行ってはいけないこと
確定申告書に転記する数字を確認すること
確定申告書を最終承認すること
夫婦経営のパン屋(納税者はパン職人である夫)を例にあげると、日々の帳簿付けや確定申告書案の作成は経理担当である妻が行っても問題ありませんが、確定申告書案の確認と承認は納税者である夫が行う必要があります。
家族が税理士であれば確定申告書を代理で作ってもらってOKなお、家族や知人が税理士であれば、申告書の作成を依頼することができます(無償でも同じです)。ただし、税理士試験に合格しただけで税理士登録をしていない人は「税理士」ではないので、そのような人が申告書の作成をすることは税理士法に反します。
(3)税理士以外に確定申告書を作ってもらったらバレる?非税理士に申告書の作成を依頼したとしても、申告書だけを見て「これは非税理士が作成した申告書だ」ということは分かりません。
ただ、その申告書の記載内容について税務署から質問があったとき、納税者が「申告書は○○さんに作ってもらったので内容は分かりません」と回答すると、非税理士が申告書を作成したことが税務署にバレてその非税理士が罰則を課されることになります。
3.家族が寝たきり・認知症の場合の確定申告は? (1)納税者が寝たきりの場合家族が寝たきりの場合であっても、十分な意思疎通ができるときは、家族が確定申告書の代筆と提出の代行を行うことが可能です。この場合は、確定申告書の承認を納税者本人に行ってもらう必要がある点はご留意ください。
(2) 納税者が認知症の場合認知症で納税者本人と十分な意思疎通ができないときは、成年後見制度を活用することを推奨します。
家庭裁判所に代理権付与の申立を行い、家庭裁判所から確定申告書提出に係る代理権の付与を受ければ、納税者本人の代理(ここでいう「代理」は民法上の代理です)として納税者の確定申告書を提出することができます。
4.納税者が海外にいる時の代理人「納税管理人」納税者が転勤などで海外にいる場合、日本の所得税法では「非居住者」として取り扱われます。非居住者の場合、たとえば海外の勤務先から海外で支払われる給料について日本の所得税は課されませんが、国内に一定の所得があるとき(たとえば日本の不動産の賃料)は日本の所得税が課され、日本で確定申告書を提出する義務が発生します。
日本で確定申告書を提出する義務があると言われても、納税者本人は海外で暮らしているため、「確定申告のために日本へ一時帰国せよ」というのは酷な話です。そこで、納税者本人に代わって日本での確定申告書提出と税額の納付を代行する「納税管理人」という制度があります。
納税管理人は、国内に住所を有する人であれば誰を選んでも問題ありませんが、一般的には親族を選任することが多いです(親族を選任できない事情があれば、税理士が納税管理人に就任することもできます)。
納税管理人を選任する場合、その選任する人が、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を納税地の税務署へ提出する必要があります。提出期限は、納税管理人を定めた日もしくは出国の日までです。
5.確定申告書の代筆・代行提出を誰に頼めばよいのかまず、確定申告書の代筆は誰に頼んでも問題ありません。「代筆」は機械的に行うものですので、誰が行っても結果は変わらないからです。納税者自身が信頼できると考える人に頼むのが良いでしょう。
一方、確定申告書の代行提出も本来は誰に頼んでも問題ありませんが、実務上、納税者との関係が不確かな人が代行提出をしようとすると税務署から色々と質問を受けることがあります。
以下では、配偶者、子ども・親、その他の家族、及び友人・知人に分けて、①代行提出を依頼することを推奨できるか、②代行提出を依頼する場合の留意点について紹介します。
(1)確定申告の代行提出を配偶者に頼む ① 推奨できるか最も推奨できます。配偶者が代行提出をするのは不自然なことではありませんし、配偶者が代行提出することについて税務署で質問されることは想定されません。ただ、配偶者が高齢で、認知機能に衰えがみえる場合は、子どもなどに代行提出を任せることを推奨します。
② 留意点税務署で提出する場合は、「納税者本人の」マイナンバーカードなどを持参する必要がある点、ご留意ください(カード原本でなく写しを持参する場合は、両面印刷が必要です)。
(2)確定申告の代行提出を子ども・親に頼む ① 推奨できるか推奨できます。配偶者と同じく、子ども・親が納税者の代わりに確定申告書の提出をすることは不自然ではありません。もっとも、子どもが未成年の場合や、親が高齢で認知機能に衰えがみえる場合は、別の方に提出代行を依頼することを推奨します。
② 留意点配偶者の場合の留意点と同じです。
(3)確定申告の代行提出をその他の家族(叔父・叔母、姪・甥など)に頼む ① 推奨できるか配偶者、子ども・親による代行提出が不可の場合は、次善の策として推奨できます。もっとも、配偶者や子ども・親と比べると納税者本人との距離が遠くなるので、確定申告書の提出を託してよい人かについては見極めが必要です。
② 留意点配偶者の場合の留意点と同じですが、マイナンバーカードという重要書類を一時的に渡すので、①と同様、渡してよい人かの見極めが必要です。
(4)確定申告の代筆・代行提出を友人、知人に頼む ① 推奨できるか友人、知人は親族ではなく、親族でない者が納税者に代わって確定申告書の提出をすることは自然なことではないため、一般的には推奨できません。
どうしても友人・知人に代行提出を依頼する必要がある場合は、郵送提出を推奨します(その場合は、配達記録が残る方法で郵送すると安心です)。
郵送提出ではなく税務署での提出を行う場合は、「申告・申請等事務代理人届出書」に必要事項を記入して、確定申告書提出の際に同時に提出することを推奨します。
② 留意点「その他の家族」の場合以上に、確定申告書の提出を託してよい人か否かの見極めが必要だと考えます。確定申告書の提出に慣れていない人に提出を依頼すると提出期限の失念などが生じるリスクがあるため、友人や知人に依頼するのであれば、多少の報酬を支払ってでも税理士へ依頼することを推奨します。
まとめ確定申告書の作成や提出を家族・友人に代わってもらえるのかどうかを解説しました。最後に、この記事のポイントをおさらいしましょう。
今回の記事の重要ポイントは……確定申告書の提出は本人じゃなくてもOK(配偶者・親・子が望ましい)
確定申告書の作成は税理士以外に頼むと法律違反になってしまう
納税者が海外にいる場合は「納税管理人」が本人に代わって日本での確定申告書提出を行う
確定申告についてまだ解決していない疑問がある方は以下の記事もお勧めです。
よくある質問
確定申告書を代理で提出できますか?
確定申告書を提出することは、誰でも可能です。一般的には、配偶者・子供・親などの家族に依頼します。詳しくは、をご覧ください。
確定申告書を代理で作成できますか?
確定申告書を代理で作成することは、税理士しかできません。たとえ無償であっても、税理士以外の人が代理で確定申告書を作成すると、税理士法違反になります。詳しくは、をご覧ください。
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